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インターネット文献検索

金子 周司

生命科学領域の研究者が文献を調査したいという場面には,大きく分けて2通りある。まずそのひとつは,特に未知の問題に突き当たったときや新しい研究を起こそうとする場合に必ず行うことであるが,過去に遡って自分の関心のある内容に関わるすべての論文を網羅的に調査することである。もうひとつの場合とは,特に先端的な研究をしているものには欠かせない日常の心がけであるのだが,「今」どのような論文が世の中で公表されつつあるのかをモニターすることである。
前者の代表がMEDLINEをはじめとする抄録データベースの検索である。最近ではインターネット上で様々なサービスが提供されており,かつては図書館に依頼していた抄録検索も研究者が自ら接続して行うことができるようになってきた。一方,後者のように現状だけを知りたい場合,研究室などの単位でCurrent Contentsを購読しているケースも多いだろう。しかし最近では学会や出版社がホームページを開設し,その中で学術誌の目次・抄録のみならず,全文まで閲覧させることで,我々は速報誌や原本の到着よりもさらに速く情報を仕入れることが可能になりつつある。
このように,研究成果に関わる原著論文や特許情報のような一次情報,そしてそれらを検索するための書誌情報や抄録などの二次情報は,いずれも電子メディアによるオンライン検索システムへと移行しつつある。本章ではインターネットを介した文献検索手段について紹介する。

1.コマンド方式のオンライン文献検索

古くからある有料のオンライン文献検索システムは文字情報だけを出力するものが多い。Dialog社をはじめ,これらのほとんどはインターネットからtelnet接続することができるが,一般にコマンドが難解であり,しかもシステムによってコマンドが異なることから検索システムに慣れない限り使いこなすことが難しい(図1)。

 図1 コマンド式の文献検索(阪大BIOSISの場合)

しかしながら,大学関係者等は学術情報センター(telnet://ir.nacsis.ac.jp)でEMBASE,阪大大型計算機センター(telnet://acos.center.osaka-u.ac.jp)でBIOSIS,東大大型計算機センター(telnet://m-vos.cc.u-tokyo.ac.jp)でCASTORを市中の接続料よりも安価に検索できるので利用すると良いだろう。これらの利用資格およびパスワード申請方法についてはそれぞれ次のホームページを参照されたい。

また,日本科学技術情報センター(JICST)は日本語の科学技術文献速報をオンライン化したJOISシステムや医中誌ファイルを中心に,内外の文献データベースをいくつか提供している。JICSTは最近,かな漢字によって検索が可能なシステムに様変わりし,ずいぶんと使いやすくなったように思われるが,いまだにインターネットからの接続は実現されていない。JICSTの利用申請や文献ファイルに関する情報は次のホームページで知ることができる。

2.MEDLINE

医学系の標準データベースであるMEDLINEは学情ネットワーク上にはなく,今までに医系大学や学部ではMEDLINE CD-ROMが非常な勢いで普及してきた。最近では,これを学内LANで共同利用する,いわばイントラネットのCD-ROM検索への応用例が増えている。京都大学でもSilverPlatter社MEDLINE CD-ROMを中央図書館にあるホストコンピュータのハードディスクに展開し,学内LANからTCP/IP接続によって同時に10人までアクセスできる共同利用を1995年より始めている。この方式だと端末機がMacintosh,Windows,Unixあるいはvt100画面制御のできる端末機のいずれであっても同じ様な操作性で使うことができる(図2)。

 図2 SilverPlatter社MEDLINE CD-ROMのLANを介した学内共同利用による検索システムの例(WinSPIRSの画面)

このMEDLINEは近い将来,インターネット上で共有されるようになると思われる。SilverPlatter社ではその準備が行われており,WWWでのMEDLINE検索を体験するページも設けられている(図3)。

 図3 SilverPlatter社ホームページにあるWWW MEDLINEの体験版ページ

MEDLINEの本家であるアメリカ国立医学図書館(NLM)が開設しているGrateful Medシステムもいずれ国内から個人が直接申し込めるようになるかもしれない。 気をつけたいのは同じMEDLINEというデータベースファイルを検索する場合でも,検索システムによって検索機能やコストがずいぶんと異なることである。このような現状の中で,研究者が個人で利用するのにコストの点などからお奨めできるのはPaperChaseである。

3.PaperChase

PaperChaseはBoston Beth Israel Hospitalが提供しているMEDLINEを中心とした有料システムであるが,年間契約料が必要なく,接続料が1時間で$ 22,抄録出力料も1件当たり$ 0.1と安価である。PaperChaseはtelnetによって接続した後,ログインIDとして「PCH,SIGNUP」と入力すればVISA,Masterなどの国際クレジットカード決済によるオンライン登録ができ,コマンドも対話式であって比較的易しい(図4)。

 図4 PaperChaseのtelnet利用

したがって,MEDLINE を個人で検索する場合に便利である。このPaperChaseへはインターネット直接のみならず,NIFTY-ServeのVANであるFENICS Road2経由でもコネクト時のアドレスを「* C CNSJ」とするだけでアクセスすることができる。PaperChaseからは原報のコピーをFAXで送ってもらう有料サービスを受けることができるが,詳細なサービス内容については,PaperChaseのホームページ(図5)を参考にしてほしい。

 図5 PaperChaseホームページ
http://enterprise.bih.harvard.edu/paperchase/

4.Entrez

研究分野は遺伝および分子生物学に限られるが,ユニークなデータベースとしてMEDLINE文献検索にも使うことができるのがEntrezである。Entrezは本来DNAおよびタンパク質データベースとして作られたが,MEDLINEのうちMolecular Biologyのサブセットがそのまま収録されている。このEntrezをWWWによって検索するシステム(図6)を使えば,MEDLINEとDNA/タンパク質データベースを相互に参照しつつ検索を行うことが可能である。

 図6 遺伝子・タンパク質・文献データベースEntrezのWWWを介した利用(http://www3.ncbi.nlm.nih.gov/Entrez/

Entrezによる検索のユニークさは,まず文献のキーワードからのみならず,遺伝子やアミノ酸配列からでも探すことができる点である。また,逆にある文献から直ちにその文献で取り上げられた遺伝子なりタンパク質の配列を得ることができる。さらに,「Neighbor」という概念が導入されており,関連する文献をリストアップすることが可能になっている。例えばひとつの論文から「Neighbor」を探すことで,同じタンパク質を研究対象にした関連論文を一覧することができる。経験的に,Entrezは分子生物学に携わる場合においては,それなりに十分な文献データベースとして使うことができるようである。

5.WWW学術雑誌コンテンツサービス

インターネットの一般社会への普及をもたらしたWWWは,文献情報としての文字と図表をネットワークで共有する,いわゆるマルチメディア的な電子図書館のインターフェースとしても優れている。特に,重要な情報が英語と日本語でほぼカバーできる医学のような分野においては,情報の記述方法のやさしさに加え,コンピュータの機種に依存しない使いやすさの点においてWWWに勝るものはないだろう。
各種学会や出版社が開いているホームページには文献検索と深く関係するものが多い。Nature(図7),Science(図8),CellおよびNeuron(図9) などの一流学術誌はいち早くWWWへの対応を行い,そのホームページを公開している。このホームページの下には,最新号の論文タイトル,抄録,求人広告,購読依頼書,別刷請求用紙など,様々に工夫を凝らしたページが揃っている。これらのhotな研究領域における先端的な論文が公表される学術誌にあっては,特にWWWで情報を公開する価値が高く,これまでのCurrent Contentsや原本の到着よりもさらに速く情報を仕入れることが可能になった。
国内でも,文部省学術情報センターが各種学会に対してホームページ公開の場を無料で提供し始めており(
http://wwwsoc.nacsis.ac.jp/),今後,このような学会による抄録情報,学会情報の発信はますます盛んになると考えられる。

 図7 Nature誌ホームページ
http://www.nature.com/

 図8 Science誌ホームページ
http://www.aaas.org/science/

 図9 Cell Press社Cell誌およびNeuron誌ホームページ

http://www.cell.com/

6.全文データベース

WWWでの学術雑誌コンテンツサービスを一歩進めて,抄録のみならず図表を含めた全文,すなわち一次情報そのもののインターネットによる提供を始めている学術誌もある。最近では論文のフロッピーディスクや電子メールによる投稿も増えつつあり,出版社も電子編集作業をするところがほとんどであることを考えると「出版」そのものの形態が変化するであろうことは明白なことである。例えば,生化学系のメジャーな学術誌であるJ. Biol. Chem.は,検索した論文の全文を手元のパソコン上にファイルとしてダウンロードすることを試験的に公開許可し,このたび本格的に事業として運営していくことを決めている(図10)。

 図10 J.Biol.Chem.誌ホームページ
http://www-jbc.stanford.edu/jbc/

このダウンロードしたファイルはMacintoshやWindowsで動くAdobe Acrobatを手元のパソコンにインストールしておくことで,実際の論文コピーと質的にもほとんど変わらないプリントアウトをプリンタに出すことができる。これは海外の学術誌に公開された論文そのものを海外での発売と同時に読めるという点で画期的な試みである。国内でもこのような全文データベース化の試みがいくつか始まっており,日本生化学会(http://www.bcasj.or.jp/)などが試験的に全文データベースのWWWページを公開している。

7.学術誌イエローページ

このように,特に海外では種々のWWW学術雑誌コンテンツサービスが公開されているが,その情報を逐一検索するのは非常に労力を要することである。そこで,どこにどのような医学生物学系の学術情報に関連するWWWページがあるかをまとめたイエローページ的なホームページが有用である。我々はインターネットに接続されたパソコンでNetscape Navigatorを起動すれば,このホームページを起点にして世界中の文献情報を探し回ることもできるようになった(図11)

 図11 ハーバード大にある医学電子図書館のイエローページ
http://golgi.harvard.edu/journals.html

おわりに

以上,ネットワークに関連した種々の文献検索システムを紹介してきたが,従来の書誌情報や抄録の検索や文字情報の出力に留まらず,研究成果の情報公開,全文データベース化は今後ますます進んでゆく方向にあると思われる。我々はこのような新しいメディアを研究生活の一手段として活用していきたいものである。