目次索引著者紹介

第3章

 目的いろいろインターネット活用術――5

細胞生物学的研究法(プロトコル)の検索

水沢 博

 実験を行う場合,実験プロセスの手順を記述した「実験プロトコル」を最初に作成するが,目的を十分に把握している実験者本人が作成するのが基本である.その際,研究室内の同僚や共同実験者などと入念なディスカッションをしながら作成することも当然であるが,十分に確立された一般的な方法については他の研究室のプロトコルを参考にすることもしばしばあるであろう.いずれにせよ,文献を基礎にプロトコルの検討を行うのが原則である.本稿は,インターネットを活用しながら実験プロトコルを作成することがテーマであるが,あくまでも原著を意識しながら参照することが基本であり,さらに自らが所属する研究室の実情を考慮して再度書き直すことを前提としている.

1.インターネット上における実験プロトコルの検索

 インターネット上には実験プロトコル集が公開されており,比較的容易に参照することができる.研究グループ内で使う汎用プロトコルをWWWサーバ上に登録しておいて利用し合うようにしている研究室も欧米には多く見られ,共同研究を行っているケースでは他からもアクセスしやすいように配慮しているようである.しかし,意外に公開されているホームページから直接アクセスできないプロトコルのページもあり,何らかの手段で検索をしてみないと見つけにくいのが現状である.
 本書を書くにあたって,筆者は検索サーバMetaCrawler Multi−Threded Web Search Service <http://metacrawler.com/> を利用した(図1).このサーバでは検索したい単語を入力すると,Yahoo, InfoSeek, AltaVista, OpenText, Inktomi, Lycos, Exciteなどの複数のサーバに検索を依頼し,短時間ですべての検索結果を集計して知らせてくれる(図2).  例として,「cell」,「biology」,「methods」の3つの単語で検索してみた.検索に要する時間が20秒,結果を表示するまでの時間が約30秒で合計1分弱であった.検索結果は,そのまま各サイトへのリンクとなっている(図3)ので,目的のサーバが見つかった場合はすぐにアクセスできる.また,この検索結果をファイルとして保存しておけば,後々もリンクが張られたサーバリストとして利用することができる.

 図1 MetaCrawler Multi-Threded Web Search Serviceの検索サーバ

図2 検索例図3 検索結果

2.インターネットに公開されている実験プロトコルの特徴

 このようにして探したWWWホームページには,DNAなどの生体物質の抽出法,培養細胞の培養法,各種電気泳動法などの汎用的な実験手法が多く見られる.もちろん,こうしたプロトコルはさまざまな実験書にも記述されている一般的な方法であるが,インターネット上に公開されているプロトコルは,実際の実験現場でアクティブに利用しているプロトコルである点に特徴があるようである.そのため各研究室に合わせて少しずつ修正が施されており,実験をやってみてうまくいかなかったような場合には解決のヒントを与えてくれるかもしれない.またこれらは,実験計画を立てる段階で多くのプロトコルを集めて検討する場合にも利用できる.
 また,JCRB細胞バンクでは,分譲している細胞に関する培養法について細胞ごとの詳細なプロトコルの掲載を始めた(図4).培養をしながら作成したものであるため,極めて詳細な記述になっている点に特徴がある.培養細胞を扱った経験のない研究者が研究の進展に伴って新たに培養細胞を利用するようなケースには,このような詳細なプロトコルの提供が必須であると考えられる.インターネットでは,印刷物よりはるかに多くの情報を容易に提供できるため,細胞培養や品質管理結果など数多くの写真情報も添付でき,利用者にとってのメリットは大きい.

 図4 JCRB細胞バンクに掲載されているプロトコル

3.実験プロトコルを掲載しているサーバのアドレス

 分子生物学や細胞生物学に関連する実験プロトコルではPedro's Research Tools <http:// www.public.iastate.edu/~pedro/research_tools.html>(図5)などが日本ではよく知られているようで,多くの国内サーバがこれにリンクを張っている.
 例えば,国立衛生試験所のサーバ <http://www.nihs.go.jp/> からもメニューの「その他」から「生物学」と順に選択していくと参照することができる.しかし,このサーバはどちらかというとコマーシャルベースのものやコンピュータリソースに関連するものが多く,実験プロトコルは比較的少ないようである.むしろ,国立衛生試験所変異遺伝部第2室の,Peter Gruz氏が独自に作成しているPetr GRUZ's research tools <http://dgm2ibm.nihs.go.jp/>(図6)の方がより充実した実験プロトコルを参照することができるようだ.国外でも純粋に実験プロトコルだけを集めたサーバは必ずしも多くはないが,英国の食品研究所( IFR:Institute of Food Research)<http://www. ifrn.bbsrc.ac.uk/gm/lab/docs/protocols.html>(図7)や米国の北西部魚類科学センター(NWFS:Nortwest Fisheries Science Center)<http://research. nwfsc.noaa.gov/ protocols.html>(図8)に比較的充実した分子生物学関連プロトコルへのリンクが整備されている.

図5 Pedro's Research Toolsのホームページ図6 Peter GRUZ's research toolsのホームページ
図7 IFRのWWWサーバ図8 NWFSのWWWサーバ

4.実験プロトコルリンクの実際

 ここで一例として,IFRのサーバ上にある実験プロトコルリンクを眺めてみよう(図7).Mark Strom's Molecular Biology Protocolsから始まって多数のプロトコルがメニューに登録されている.その中にDavid Bowtell's Biochemistry, Molecular Biology and Cell Biology Protocolsがちょっと気になった.これは,<http://grimwade.biochem.unimelb.edu. au/bowtell/cellbiol/cellbio.htm> へのリンクで,オーストラリアのメルボルン大学へ接続する(図9).日本から英国IFRのコンピュータを中継地としてオーストラリアのプロトコルを参照したわけである.このプロトコル集には,ES細胞に関連する実験法が多数収録されているが,メルボルン大学シグナルトランスダクション研究グループのものであることがホームページに記載されており(図10),細胞生物学,分子生物学,生化学プロトコルなど多数が収録されていた.
 余談だが,David Bowtell氏はどのような研究をやっているか気になったので,MEDLINEで検索してみたところ次の論文が見出された.
Bowtell,D., Fu,P., Simon, M. and Senior, P., Identification of murine homologues of the Drosophila son of sevenless gene:potential activators of ras. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 89:6511, 1992
 論文に記載された所属はUniversity of Melbourne, Parkville, Australiaで,ホームページに記載されていた内容と一致している.

図9 メルボルン大学,シグナルトランスダクション
研究グループの実験プロトコル集
図10 メルボルン大学シグナルトランスダクション
研究グループのホームページ

5.ダウンロード可能な実験プロトコル

 WWWによって参照できるプロトコルの多くは,Netscape Navigatorなどのナビゲータソフトウェアで直接参照することができる.しかし,中には,Acrobat Readerなどの独立したプログラムがないと読むことができないものもあることも知っておいたほうがよいだろう「Acrobat Readerについてはコラム(p102)で解説しているので,詳しくはそちらを参照してほしい」.このような場合は,掲載しているホームページにその旨説明があるので,指示に従って必要なソフトウェアを入手しなければならない.こうしたソフトウェアは,アドインあるいはプラグインソフトウェアと呼ばれ,Netscape Navigatorと一緒に使用できる.もし,そのようなソフトウェアの準備がなければ,とりあえず読みたいファイルを自分のコンピュータに取り込んでファイルとして保存しておき,後で必要なプログラムを手に入れてゆっくり見ればよい.図11にAcrobat Readerのファイル形式で公開されている実験プロトコルの例を紹介しておく.なお,Acrobat Readerだけでなく,MS Wordの文書ファイル,テキストファイル,Excelのファイルなどというケースも多い.

 図11 Acrobat Reader用に公開されている実験プロトコル

6.情報共有という視点で使うインターネット

 実験プロトコルを収録しているWWWサーバは国際的に見ても必ずしも多くはないが,性質上あまり公開したくないという場合があるのかもしれない.非公開のものを含めればかなりの実験プロトコルがインターネットに接続されているのであろう.ここで,考えてしまうのが,わが国からの情報提供である.インターネットは急速に普及しつつあるが,実験プロトコルを含めて有用な情報を公開している機関はまだまだ少数である.また,公開を開始した機関でもパブリックドメインとして役に立つ情報を提供している組織は少ないようだ.
 やはり,日本の研究機関からの国際的な情報公開が進んでいないということになると,またまたお叱りを受けることになるだろうということも気になるが,あまり肩ひじを張らずに気楽に考えてみたらどうであろうか.インターネットを必ずしも外部からの情報を取る手段とだけ考えず,研究グループ内の情報共有化をはかる手段として考えてみてほしい.
 筆者は所属する細胞バンクホームページから細胞培養の詳細な実験プロトコルを公開しているが,実は最初から公開することを考えて作業を始めたわけではなかった.WWWの使い勝手のよさを利用して内部で使う培養プロトコルを共有して仕事の効率化を目指したのである.実際に作ってみると想像以上に便利で,培養法に関する質問も多いことから,そのままホームページへリンクを張ってしまったといういきさつである.
 まずは気楽に自分だけのホームページを作成し,Netscape Navigator起動と同時に表示されるようにしておくことをお勧めする.そのファイルにプロトコルのアドレスを書き込んでしまえばすぐに利用できるし,一度書いてしまえば外部に公開することも容易である.ちょっと余計な仕事となるが,手伝ってくれる若い人がいればさほど困難なことではないであろう.