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序にかえて

なぜ今インターネットなのか――その絶対的優位性と研究上での活用法

 

あふれる情報と圧倒的な使いやすさ

 米国の軍,大学などの研究ネットワークから発展したインターネットの普及は目覚ましい.インターネットとは,計算機ネットワークをつなぐネットワークであり,個々のネットワークがそれぞれ隣のネットワークまでを自費でつなぎ合うことによって世界中の計算機ネットワークが融合したものである.日本では,民間の大学や研究機関のネットワークからだけでなく,ネットワークサービスプロバイダと呼ばれる商用ネットワークに電話とパソコンをつなぎ,個人でもインターネットへ接続できるようになったことから,一般社会に急速に普及することになった.
 インターネットの利用で現在特に有名なのが,WWW(WorldWideWeb,ワールドワイドウエッブ)である(第2章の1「WWWブラウザ―Netscape」の項を参照).WWWの利用画面は,ちょうど電子辞書のようにインターネット内のさまざまな情報を見ることができるようになっている.WWWの1画面(WWWページ)は,文章だけでなく,画像,音声も表示・出力できるハイパーメディアになっており,利用者が画面に示されたボタンを押すだけで次の画面へ移動するハイパーテキストになっている.ボタンにはURL(Uniform Resource Locator)というインターネット内の情報の種類と場所を示す符号が書かれており,このボタンで世界中の計算機を呼び出し,閲覧することができる.
 計算機ソフトウェアはこれまで,機種により使用方法が違うのが当たり前であったが,WWW表示用ソフトウェア(ブラウザ)は,パソコン用,ワークステーション用など,さまざまな機種に対応したブラウザが開発・販売されており,それぞれ同一のユーザインターフェースを持っているため爆発的に広まった.
 WWWの利用は,情報提供者にとっても,大きなメリットをもたらした.インターネットに接続した計算機(WWWサーバ)にWWWページのもととなる情報を置くだけで,国内だけでなく,世界中の人が,接続してきてくれる.また,ハイパーテキストの画面自体が説明書を兼ねており,従来,機種ごと,提供ソフトごとに用意し,事前に送付しておく必要があった「情報の利用のためのマニュアル」が,ほとんど必要なくなったのである.
 日夜探査ロボットによりURLをくまなく調べている<http://www.lycos.com/>によれば,1996年6月現在,インターネットのURLは約4,000万である.多くても心配ない.WWWページを効率的に検索したり分類したりするカタログや検索エンジンが開発されている.図1は,複数の検索エンジンに同じキーワードで検索し,結果を統合して返すMetaCrawlar <http://www.metacrawler.com/>である.  世界中の情報がいとも簡単に検索できるようになったのだ.

 図1 MetaCrawlarの検索ページ  

研究用データもインターネットにあり

 1996年4月,酵母の全ゲノム配列が決定された(Saccharomyces cerevisiae,strain S288C).ゲノムサイズは1,200万塩基対.ヒトのゲノムサイズ30億塩基と比べると250分の1ではあるが,全ゲノムが決定されている生物としてはこれまでで最大のものである.
 16本の染色体のうち一番最初に配列が決まったのは第3染色体で,1992年のことである.第3染色体の決定の論文がNatureに発表されても,肝心のDNA配列自体は印刷されていない.配列はデータベースに登録されており,論文に書いてあるアクセッション番号(個々のDNA配列に付く固有の認識番号)を頼りに「後で検索できるもの」との前提になっているのである.
 実際この配列は,インターネットを使って見ることができる.第3染色体,310,500塩基対は,以下のURLにある.
 <http://srs.dna.affrc.go.jp/srs/jsrsc?[EMBL-id:SCCHRIII]+-sf+PIR
 <http://www.genome.ad.jp/htbin/www_bget?gb:SCCHRIII
 もちろん,今回決定された酵母の全ゲノムを取り寄せることもできる.
 <http://genome-www.stanford.edu/Saccharomyces/
 なお,Nature, 357:38-46(1992)に投稿された論文のアブストラクトは,以下で見ることができる.通常有料の論文検索も,分子生物学分野においては,インターネット経由で無料である(詳しくは,第3章の3「遺伝子解析におけるネットワークの利用」の項参照).
 <http://www3.ncbi.nlm.nih.gov:80/htbin-post/Entrez/query?uid=92244356&form= 6&db=m&Dopt=r
 <http://www.genome.ad.jp/htbin/bget_medline?92244356
 DNAのデータは,この15年の間にまず印刷物として流通し,それがフロッピー,磁気テープ,CD−ROMと,量が増えるにつれ配布形態が変わってきた.年に2倍以上の伸びからすると,これからはネットワーク接続をした計算機で,インターネット経由で配布を受けるか,配布によらずインターネット経由で検索を行うことしか,実際できなくなるのではないだろうか.
 DNA情報に限らず,数多くの情報がインターネット経由でしか手に入らない状況が生まれつつあるのである.  

研究情報の流通革命

 インターネットは,情報の取得だけでなく発信ができる双方向メディアとしての特色を持つ.前述のNatureの例をあげるまでもなく,研究論文を雑誌に投稿する場合にはページ数という量的制限があり,膨大な実験データを抱える論文には,潜在的に電子化による量的拡大のニーズが存在している.論文に載せきれなかった実験データも,研究者自身が情報の発信者となることにより,他の研究者と情報の共有ができるのである(MacintoshやWindowsのサーバ,所属組織やネットワークサービスプロバイダのWWWサーバを使って情報の発信をする方法は,第4章「自ら情報を発信する方法」を参照).
 DNAのデータベースでは,研究者に無料でデータの提供を求める代わりに,他の研究者のデータと統合され無料のデータベースとして還元されており,すでに情報の共有が成り立っている.データベースに限らず,さまざまな研究情報をインターネットに置き,1つの巨大なデータベースとして共有する時代が来たのだ.  

インターネットで共同研究

 私自身がインターネットで最も恩恵を被っていると思っているものに,遠隔地の共同研究者と緊密な連絡がとれることがある.年に1度か2度しか顔を会わせることしかできない遠く離れた共同研究者とも,電子メール,メーリングリスト(1つの電子メールのアドレスにメールを送るとリストに登録されている複数のメールアドレスに自動で配送されるもの)で緊密な連絡を取り合い,研究を進めることができる.メールという文字情報だけで話が伝わらない時には,電子メールに添付書類をつけたり,WWWサーバにデータを置いてもらい,それを見ることもある.また,複数の人と同時に連絡をとる必要がある時には,IRC(文字)(図2)やCU-SeeMe(画像,音声)(図3)で簡易会議を開くこともできる.

 図2 マック用日本語が可能なIRCクライアント
 図3 マック用CU-SeeMe

 メーリングリストについては,付録B「メーリングリスト一覧」,Macintoshでメーリングリストを作成する場合は,第4章のD「メールサーバ,メーリングリストサーバ」の項を参照してほしい.また,所属組織のネットワーク管理者に相談すれば,Unix計算機によるメーリングリストの作成に協力してくれる場合がある.ネットワークサービスプロバイダには,有料でメーリングリスト管理の代行をしてくれるところもある.

 インターネットにより,研究室の内外,大学と国の研究所,民間などの垣根がなくなった.既存の組織の枠組みにとらわれずネットワーク上で連絡をとりながら共同研究を行う「インターネットに存在する研究室」が実現されようとしているのだ.  

本書もインターネットで

 これからも,インターネットは変わり続ける.この本の内容も早晩古くなっていくだろう.この本は,WWWでも提供する.WWW版では,最新情報を盛り込むよう努力したい.URLは以下である.  本の内容もインターネットで見ることができる時代になったのである.
 本書に書かれているハイパーリンクをたどり,インターネットにある多くの情報を研究に役立ててもらえれば幸いである.

  1996年盛夏

編者を代表して

  鵜川義弘